読書考

October 23, 2012

心のビタミン 読書考3 「英雄ここにあり」

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読書考3で取り上げるのは、この3冊だ。

「英雄ここにあり」−三国志−上・中・下 柴田 練三郎著 1972年 講談社発行

この本に出会ったのは、40年前私がまだ学生のときであった。中国語を専攻し、これからは中国が必ず台頭してくるだろうと思っていたころである。語学は中国語、ゼミはファシズム、クラブは体育会剣道部、アルバイトは印刷所の文選工と植字工という変わった学生であった。
この時代の男子学生は三国志が大好きであった。
おっと、ここで言う「三国志」は実は「三国志演義」のことである。
本来単に『三国志』と言う場合、中国明初期の官吏陳寿が記した史書のことを指す。それに対して『三国志演義』とは、明代の娯楽小説であり、『三国志』を基としながらも説話本や雑劇から取り込まれた逸話や、作者自身による創作が含まれている。また、登場する地名・官職名・武器防具などは三国時代の時代考証からみて不正確なものも多い。(ウィキペディア参照)

私も三国志を読みたくていろいろ本屋を物色していた。そんな時見つけたのが柴田錬三郎の「英雄ここにあり」だ。
柴田錬三郎はこの本で第4回吉川英治文学賞を受賞している。

先日、リビングの片隅に積んであった雑誌や書籍の中から見つけた。書籍の表3に1972年5月11日新堀にて求むと書いてある。40年前この本を夢中で読んでいたときを思い出し、再び読み始めた。

今また「三国志」ブームで書籍やマンガ、ゲーム、カードで大人気だが私の三国志の原点はこの柴田錬三郎の「英雄ここにあり」−三国志−上・中・下である。
三国志の入門編としては、読みやすく(今の若い人には難しいかもしれないが)展開が速く血湧き肉踊るようなわくわく感がある。
高揚感のある読み物が「三国志」である。誇張とは分かっているが、ついつい引き込まれてしまう。

三国志の内容は言わずもがななのでここでは解説しないが、あれからいろいろな作家の三国志や図解、映画などを見てきたせいであろう登場人物の見方や物語の展開にあの時とは違う感情が湧いてきた。
40年前、劉備、関羽、張飛、趙雲、などの武将と軍師諸葛亮の活躍に胸躍らせ喝采したものであるが、今、劉備をもてなすのに劉安が妻を殺してその人肉を提供するくだりなど正に鬼畜の仕業としか思えない。曹操の非道は言うに及ばず、張飛の酒席での酒乱ぶり、劉備の優柔不断さ、諸葛亮の人間離れした予言や行動、呂布の想像を絶する剛勇振りなど首をかしげることしきりであるが、それでも三国志は青春の1冊に変わりない。

いろいろな意見があるだろうが、私は若いころに三国志を読むことは、大人の階段をひとつ上がるために必要ではないかと思っている。
そんな時、柴田 練三郎の「英雄ここにあり」−三国志−上・中・下 はお奨めである。


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April 02, 2012

心のビタミン 読書考2「凍った地球」

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読書考2で取り上げるのは、この1冊だ。

「凍った地球」スノーボールアースと生命進化の物語 田近 英一著 2009年新潮社発行

私は、宇宙や地球また生物の進化に関する著書に大変興味がある。今までも地球や宇宙に関するいろいろな書物を読んできたが、この「凍った地球」は表題を見たときにこれだと思った。それというのも何年か前にテレビ番組で地球の進化に関するドキュメンタリーを放送していたが、その中で地球が徐々に現在のような緑豊かな温暖な星になって行ったのではなく、何度も過酷な気候変動を繰り返し、現在に至っているというところに大変興味を惹かれた。今私達が住んでいる温暖で青い海に囲まれた平和な気候は一時的なものなのだ。いつまた地球が荒ぶれた素顔を見せるか知れない。その片鱗を3.11の東北大地震と津波で私達は目の当たりに見せ付けられた。しかし、それはまだまだ地球の微笑みの範囲なのだ。この地球は過去に何度か全球凍結(スノーボールアース)という過酷な気候を体験している。そのたびに生命は絶滅したのだろうか? そしてまた生命が誕生したのだろうか? その謎を解き明かしてくれるのではないかとこの書籍を手にした。

プロローグの中で著者は言っている。「今地球の温暖化が騒がれているが、温暖化は人類社会にとっての大いなる脅威なのであって、地球にとってみれば過去に何度も経験してきた気候変動のひとつにすぎない。地球は現代の温暖化よりもはるかに過酷な気候変動を、これまで何度も経験してきたのである。」
よく地球に優しくという標語が使われるが、人類に優しくというのが正しい言い方なのである。地球という生命体はタフな生命体である。その中で生きている生命もタフでないと生き残れない。「強いものが生き残るのではない。頭の良いものが生き残るのではない。変化に対応できるものが生き残れるのだ。」という言葉がこの本を読んでいると実感する。

著者は言う。「私達は、現在の地球環境のことしか良く知らない。「今年の夏はおかしい」とか「異常気象だ」などと言ってみたりするが、現在の地球環境が、地球史において典型的なものであるという保証はどこにも無い。現在の温暖化が未曾有のものなのか過去にもしばしば生じた自然変動に類するものなのかは過去の地球環境について理解しないと将来を予測できない。」と言って過去の地球環境をつぶさに解説している。
このあたりは、大変に難解であるが、興味を惹くところでもある。特に現在は地球史の中では「氷河時代」に区分される時代だというのには驚いた。

また、この地球は過去に何度か数百万年にわたり全球凍結と言う想像を絶する気候変動を体験している可能性が高い。零下50度を越す状況で生物は生き残れたのだろうか? 著者も大きな疑問を抱えていたが、過去の地球を調べていくと数千メートルという氷の下の海底火山の熱水中で生物は生き残っていたという証を発見している。
では、地球はそんな過酷な状況をどうやって克服し現在のような地球になって行ったのだろうか? 大気の変化、温暖化プロセス、プレートテクトニクス、太陽の影響、生物進化。さまざまなファクターから衝撃的な仮説が証明されていく。地球に興味がある人にお勧めの1冊である。



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February 12, 2012

心のビタミン 読書考1

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読書の仕方は人それぞれであり、どういう読み方がいいということは無い。
私は1冊の本をじっくり読むほうである。乱読はしない。斜め読みもしない。時間をかけてじっくり読むのが好きだ。だから多読ではない。読む本の数は少ないかもしれない。何度も読み直す本も多いからだ。
読書は心のビタミンだと私は思っている。読む本によってビタミンAであったり、Cであったり、B1やB2であったりする。
今まで何年もブログを書いていてどうして読書のことを書かなかったのか?自分でも不思議である。そう思ったら急に読書のことを書きたくなった。

今回「心のビタミン 読書考」の初めてとして取り上げるのは迷い無くこの1冊である。

「運命を拓く」天風瞑想録 中村 天風著 1994年講談社発行

中村天風著とあるが、実は天風会会員の堀尾正樹氏が15年かけて、夏季修練会において中村天風師が講述されたものを、語り口、呼吸、迫力などをそのままに苦労して1冊にまとめたものである。
中村天風については、長くなるのでここでは省略させていただく。「運命を拓く」は、2000年末に購入し、すでに八読し、現在九回目の読書に入っている。
何度読んでも新鮮である。読むたびに行間から心に自然と力(ビタミン)が入っていくのが分かる。この感触は説明できない。この本は、斜に構えて読むと「そんなことがあるか」という一言で終わってしまう。正面から体当たりする気構えで読まないと難しい、荒唐無稽だ、くだらないという感想になってしまうだろう。
実は、この本こそ行間を読むという言葉にぴったり合う本は無い。だから九回目に挑戦しているのだ。まだまだ行間からにじみ出てくるビタミンを吸い上げきれない。

この本の中で一番好きな言葉は、「力の誦句」である。
私は、力だ。
力の結晶だ。何ものにも打ち克つ力の結晶だ。
だから何ものにも負けないのだ。
病にも、運命にも、
否、あらゆるすべてのものに打ち克つ力だ。
そうだ!
強い、強い、力の結晶だ。

これは、インドのカンチェンジェンガの山奥の洞窟に書かれていたサンスクリット語を訳したものだ。カンチェンジェンガの洞窟はヨガの修行僧が修行のために立て籠もり、悟りを開いたときにその感動を壁面に彫ったようだ。天風師もここでヨガの聖者カリアッパ師に導かれ修行をしている。
本の中にはいろいろな誦句が紹介されているが、私は「力の誦句」が一番好きである。

この本は、全編を通して「人間の心で行う思考は、人生の一切を創る」ということを分かりやすく(読む人にとっては非常に難しいと感じるかもしれないが、)例を出しながら解説している。
腰をすえて読みたいという人には是非お勧めの1冊である。
因みに私はこの本を常に3冊所有している。いつでも人に贈れるように。そして、2冊になるとまた1冊購入する。

「運命を拓く」には、たくさんの珠玉の言葉が出てくるが、それはまた機会があればご紹介します。


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