皐月章太郎

June 18, 2010

皐月章太郎 3

半年振りに彼と酒を酌み交わした。
古ぼけた黒い表紙のハードカバーのノートを1冊持ってきた。
彼は詩人である。古今東西の名言や自分の心に沁みた言葉をそのノートに書き込んでいる。
何度かそのノートを見たことがあるが、中を覗いたことはあまり無かった。
酔いもだいぶまわってきた頃、そのノートをめくり大きな声で詩を読み始めた。最初はどこかで聞いたことがあるなと思っていたが、すぐに思い出した。そうだ社会人になりたての頃、彼のアパートでよく口ずさんだ詩だ。口ずさんだと言えば聞こえはいいが、暗記していたその詩を酔いにまかせて怒鳴っていたのだ。
昭和50年、日本は元気だった。

すっかり忘れていたその詩を彼が読み始めたので、びっくりした。
「今日の酒は楽しいな。こういうときにはこの詩だ。お前も思い出したろう。」そんなことを言いながら読んだ。

「酒の詩集」の中にある「楽しむ酒」だ。

  とにかく酒がうまいんじゃ 飲めば酒奴(さけめ)もよろこぶぞ
  とにかく互いに気が合うて 一杯一杯また一杯
  そろそろ天にも昇るよう 女もキレイに見えてきた

  縄ノレンでも御殿でも 座ったところが俺の城
  一杯一杯また一杯 酒を相手にごきげんだ
  とにかくこの世はバラ色で ゆめかうつつかまぼろしか
  
  ゆめかうつつかまぼろしか それはどうやら知らないが
  とにかく友達恋しいね 恋しい友が前におり
  キレイな女がそばにおり 心はずんで気は浮くか

  浮けばステテコシャンシャンで ひとり歌えばいい気分
  ふたりで歌えばデュエットで 三人歌えばトリオかな
  他人の耳には騒音も 酔うた耳には天の楽

  雑然騒然うるさいが 酔うた耳にはしずかなり
  互いにしゃべる名論も いすかの嘴のくいちがい
  相手の論など聞いていぬ おれの論のみ世を満たす

  おのれは宇宙一杯に むくむく広がる気持ちして
  ほかの奴らは気にならぬ 宇宙一杯の化物が
  一人二人 三四人 一杯二杯 三四杯

  のめばのむほど喉かわき 酒が酒をば呼んでいる
  腹の中には酒の虫 頭の中には酔いの虫
  虫が好いたる良い男 揃い揃うて飲んでいる

  帰りたいやつ帰りゆけ 倒れたいやつ倒れ伏せ
  でっかいでっかい酒虫を 飼うたる奴はまだものめ
  のんでのんでまたのんで 歌うておれば太平じゃ


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February 19, 2009

皐月章太郎 2

先日、幼馴染の皐月章太郎氏と会い昔話に花を咲かせていた。
話題は東京タワーだ。
ああでもない、こうでもないと議論百出、話題は八方へ飛んで別れたが、数日して手紙が届いた。その中に「東京タワー」という詩が添えられていた。

「東京タワー」

あの頃、東京タワーを毎日眺めていた。
早朝の凛とした姿、
雨に打たれてしょんぼり佇む姿、
炎天の中堂々とした姿、
雪を被ってじっと耐えている姿、
ネオンをいっぱい点けて気取った姿、
しかし、いつの間にか東京タワーの姿に感動しなくなった。
東京タワーの存在すら忘れかけて日々に追われる。
あれから50年。
そうだ、東京タワーも50歳だ。
子供の頃に見たあの姿は今も変わらない。
私が東京タワーを忘れても、
東京タワーは変わっていく私の姿を今日も見つめている。

彼も私と同じ気持ちだったのかと改めて知らされた。


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June 21, 2007

皐月章太郎 1

皐月章太郎氏に久しぶりにお会いした。

彼は小学校時代の同級生であり、皐月章太郎という名前はペンネームである。
小学校から大学まではよく会っていた。何かの節目、節目ではよく会った。彼は詩人を目指していたが、詩を書くだけでは食べていけないため、いろいろなことをしてきたようである。大学を卒業した後、彼と会う機会がほとんどなくなった。私の仕事が忙しくなり、だんだん距離が遠くなったのである。

彼は中学、高校時代よく詩を書いていた。そして当時流行っていたグループサウンズに詩を提供していた。もちろんアマチアや売れないGSに提供していたのだ。中学、高校の先輩に先日亡くなったモップスの「鈴木ひろみつ」さんがいたが、当時モップスはかなり売れていたので、彼が詩を提供するということは出来なかったようである。

久しぶり、本当に久しぶりであった。25年ぶりくらいだろうか? 彼は今も詩を書いているという。しかし、今は趣味で書いているようだ。私は詩のことは良くわからない。彼の詩が良いのか悪いのか? いや詩に良いも悪いもないのだろう。詩に力があるかないかだけであろう。人の心に響くか響かないかだけであろう。
彼は純粋な気持ちの持ち主である。素直な詩が多いように思う。詩集などは作っていないという。ノートやチラシの裏に書き溜めているだけだという。子どものことを聞いたが、残念なことに結婚はしていないという。生活のために働くのは苦手なようである。

独身で気ままに過ごしたいという。それもまたいいか。
時々、ブログで皐月章太郎さんの詩を披露してみたいと思う。彼がいいと言えばであるが。


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